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東京地方裁判所 平成10年(ワ)30416号・平8年(ワ)8919号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 小泉萬里夫

被告 日動火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 相原隆

右訴訟代理人弁護士 三宅雄一郎

同 苅野浩

同 西館勇雄

同 高木権之助

独立当事者参加人 社団法人静岡県農協保証センター

右代表者理事 田代雄彦

右訴訟代理人弁護士 立石勝広

同 西河修

主文

一  被告は、原告に対し、二〇九一万九七九七円とこれに対する平成八年一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、参加人に対し、一九九〇万円とこれに対する平成八年一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告は、参加人に対し、三九四九万三八八七円及びこれに対する平成一〇年一二月四日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

四  原告及び参加人の被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用中、原告に生じた費用の四分の三と被告に生じた費用の四分の一及び参加人に生じた費用の二分の一はこれを原告の負担とし、原告に生じた費用の四分の一と被告に生じた費用の二分の一及び参加人に生じた費用の四分の一はこれを被告の負担とし、参加人に生じた費用の四分の一及び被告に生じた費用の四分の一はこれを参加人の負担とする。

六  この判決は、一ないし三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告(主位的、予備的とも)

被告は、原告に対し、六七八八万二八三四円及びうち六〇五〇万六一一三円に対する平成七年一二月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  参加人

1  主文三項同旨

2  被告は、参加人に対し、三九四九万三八八七円及びこれに対する平成一〇年一二月四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、保険会社である被告との間で、建物及び家財につき火災保険契約を締結した原告が、保険の目的である建物及び家財が火災により焼失したとして、被告に保険金の支払を求めたところ、火災保険金請求権に対する質権を取得していた参加人が保険金を自分に支払うべきこと等を求めて訴訟参加した事案である。

二  前提となる事実

1  被告は、損害保険業を営む株式会社であり、参加人は、保証委託を受けて連帯保証をする業務を行う社団法人である(弁論の全趣旨)。

2  原告と被告は、平成二年一一月一〇日、原告を保険契約者、被告を保険者として、要旨左記のとおりの長期総合保険契約(以下「本件総合保険契約」という。)を締結した(争いがない。)。

(一) 保険金額 五〇〇〇万円

(二) 証券番号 第九二八〇四三四三号

(三) 保険期間 平成二年一一月一〇日午後四時から平成一二年一一月一〇日午後四時まで

(四) 保険の目的 家財

(五) 保険の目的の所在地及び保険の目的を収容する建物の構造・用法・面積

(1)  所在地 静岡県伊東市岡字地円畑一九八番地四八

(2)  別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)

ただし、契約上の表示は、地上三階建、延べ面積二一一・二平方メートル

3  原告と被告は、平成七年六月六日、原告を保険契約者、被告を保険者として、要旨左記のとおりの住宅火災保険契約(以下「本件住宅保険契約」といい、前項の「本件総合保険契約」と併せて「本件保険契約」ともいう。)を締結した(争いがない。)。

(一) 保険種類 住宅火災

(二) 保険金額 五〇〇〇万円

(三) 証券番号 第一三〇七四一六八五号

(四) 保険期間 平成七年六月六日午後三時から平成八年六月六日午後四時まで

(五) 保険の目的 本件建物

4(一)  原告とその妻であるB(以下「B」という。)は、平成二年四月一二日、あいら伊豆農業協同組合(当時の名称は「伊東市農業協同組合」。以下「あいら農協」という。)から五〇〇〇万円を借り受けたが、その際、参加人は、原告及びBから委託を受けて、右消費貸借上の債務につき、あいら農協に対して連帯保証をした。参加人と原告及びBとの間の保証委託契約においては、参加人が代位弁済した場合、原告及びBは、代位弁済金額とこれに対する代位弁済の日の翌日から年一四パーセントの損害金を支払う旨の約定がある(丙一、三の1、2、弁論の全趣旨)。

(二)  原告は、あいら農協に対する前項の債務を担保するため、平成七年六月六日、あいら農協に対し、本件住宅保険契約に基づく保険金請求権に質権を設定し、被告は、同月二三日、右質権の設定を承認した(丙七、弁論の全趣旨)。

(三)  参加人は、原告及びBがあいら農協に対する債務の弁済を怠ったため、平成一〇年一二月三日、あいら農協に対して、三九四九万三八八七円を代位弁済し、弁済による代位によりあいら農協が設定を受けた質権を取得した(丙五の1、2、八、弁論の全趣旨)。

5  平成七年一一月三〇日午前一時〇二分ころ、本件建物から出火し、本件建物は全焼した(争いがない。)。

6  原告は、平成七年一二月二〇日ころ、被告に対し、本件保険契約に基づく保険金の支払を請求した(争いがない。)。

三  争点

1  本件火災による保険金請求権の有無(免責事由の存否)

(被告の主張)

(一) 本件総合保険契約及び本件住宅保険契約には、いずれも、保険契約者の故意若しくは重大な過失によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の約定があるところ(長期総合保険普通保険約款損害条項一〇条一項一号、住宅火災保険普通保険約款二条一項一号)、本件火災は、原告が放火したか、仮にそうでないとしても、原告の重大な過失によって出火したものである。

(二) 本件火災では、<1>本件建物一階の居間に配置された仏壇南側の台上の雪洞(ぼんぼり)の台座付近、<2>本件建物一階の台所に配置された冷蔵庫南東角部柱の基部付近、<3>右冷蔵庫の南西部に位置する柱周辺から右仏壇北東角部の柱周辺までの床の細長い帯状部分の少なくとも三箇所からほぼ同時期に出火している。右出火箇所のうち、冷蔵庫や雪洞は電気器具であるが、伊東市消防本部が調べたところ、電気配線、コンセントに短絡ショートは認められず、屋内配線についてもブレーカーは断になっていなかったから、電気系統による出火は否定される。そして、火の気のない複数の箇所から同時に出火したことは、本件火災が放火によって発生したことを示している。しかるところ、本件火災の発生当時、本件建物は施錠されており、第三者が本件建物に侵入したり、本件建物に宿泊したりしていた形跡はない。本件火災発生当時、本件建物内にいたのは原告一人であるから、本件火災は、原告による放火によって発生したものであると考えざるを得ない。なお、原告は、本件火災発生後、本件建物二階ベランダから飛び降りているが、そのような行動をとるにはそれなりの決意は必要ではあるものの、高低差二メートル程度のところへ布団をクッションに利用する方法を採っているから、生命の危険を伴うほどのものではないのであり、原告がこのような避難行動をとったことをもって、放火を否定する理由とはならない。なお、出火場所、出火原因の判定は、火というものの基本的性質を踏まえた判断作業の積み重ねであるから、建物の燃焼状況を具体的に示す写真があれば十分であり、しかもその写真も被写体の色彩や細部の状況が問題とされるわけではないから、写真に基づく鑑定は可能であって、乙第一二号証の鑑定書は信頼できるものである。

(三) 仮に、原告に故意がなく、原告が消し忘れた仏壇のろうそくから本件火災が発生したとしても、通常ならば仏壇のろうそくから火災が発生してしまうことは考えられないことから、原告は極めて危険な状態でろうそくを灯火していたといわざるを得ず、本件火災は原告の重大な過失によって発生したものである。

(原告の主張)

(一) 被告の主張は否認する。原告は、本件火災に際し、二階ベランダから飛び降りて負傷しており、これは放火した者がとる行動ではない。また、放火するのであれば、柱の基部などではなくもっと燃えやすいところに火をつけるはずである。

(二) 出火原因は、原告としても不明であるが、本件の証拠から推測すれば、本件建物一階の居間の仏壇から出火し、他の部分に燃え広がったと考えられる。そして、この場合火元となりうるのは仏壇に上げていた線香の火くらいであり、これを消すことなく就寝することは重過失とまではいえない。また、仮に右仏壇のろうそくの火の消し忘れがあり、これも出火原因であったとしても、右仏壇は、最高級品として制作を依頼して完成したものであり、仏具の配置等も事故が発生しないようにしていたものであるから、ろうそくの火の消し忘れが火災の原因となるとは予見できなかったものであり、これをもって重過失があるとはいえない。また、本件火災では、居間の西側や冷蔵庫周辺においてあった携帯ガスコンロ用スペアボンベ、殺虫スプレーなどに引火することにより、焼きの強い部分が複数生じたものと考えられるが、これらのボンベ等を居室内に置いておくこと自体は何ら違法ではなく、不適当な行為でもないから、これらが延焼に何らかの影響を与えたとしても出火につき原告に重過失があるとはいえない。

(参加人の主張)

(一) 被告の主張は否認する。被告の主張する三箇所は、特に焼きの度合いの強い部分であるが、これらは隣接しているのであるから、全く違った場所から同時に出火したものではないし、ガスボンベなどの二次的な発火材料が置かれていたことが焼きの度合いに寄与したものと考えられる。また、本件火災により、原告は、二階ベランダから飛び降り、約五〇日に及ぶ入院加療を必要とする重傷を負っているし、放火するのであれば、柱の基部などではなく、より燃えやすい部分に放火するはずであるから放火とはいえない。

(二) そもそも、複数箇所から出火したとする乙第一二号証は、その作成の根拠資料に問題がある上、鑑定人自身が現場に臨場して判断しているものではないから信用できないものである。

2  保険金請求権が存する場合、本件総合保険契約に基づいて支払われるべき保険金額はいくらか。

(原告の主張)

(一) 原告は、本件火災当時本件建物内にあった別紙家財目録記載の家財を本件火災により焼失した。その価格は、同目録の購入金額欄記載のとおりであり、損害額は五〇〇〇万円を下ることはないから、五〇〇〇万円全額の保険金が支払われるべきである。

(二) 被告は、貴金属・宝玉・宝石・書画・骨董・彫刻物その他の美術品のうち三〇万円を超えるものについては、保険証券に明記されたもの(以下「明記物件」という。)でない限り、保険の目的に含まれないと主張するが、原告宅には常々高価な家財が多かったので、平成二年一一月上旬ころ、被告伊東支社長の平河福太郎(以下「平河支社長」という。)と被告代理店の木梨諒伊千(以下「木梨」という。)が原告宅に来訪し、原告宅の家財につき取得価格等を記載したリストを作成し、物件の査定手続をして、総額五〇〇〇万円程度の家財が存在すると確認し、平河支社長の承認を得て、原告は、本件総合保険契約に加入したものである。この際、平河支社長らからは、明記物件に関する説明や、火災保険契約約款に関する説明などされなかった。したがって、仮に、平河支社長らが、右リストを保険証券に添付したり、あるいは保険証券に必要な記載をしなかったとしても、それは被告側の事務手続のミスであり、信義則上、被告は、明記物件であるとの主張をし得ないものというべきである。

(三) 仮に、明記物件となっていないため、保険の対象とならず、保険金請求が認められないとしても、被告の従業員である平河支社長は、原告宅の家財を査定しながら、原告の被告に対する信頼及び原告の無学に乗じ、あえて明記物件の説明をせず、原告の高価な家財を明記物件としなかったため、原告が保険金の支払を受けられないことにさせ、明記物件となっていたなら受けられたであろう保険金額と同額の損害を与えたものであるから、被告は、民法七一五条、七〇九条に基づき、保険申込書に貴金属・宝玉・宝石・骨董等の物件が明記され、保険者の承認を得て保険証券にその旨記載されていた場合に原告らが取得するはずだった保険金と同額の金員を損害賠償金として支払う責任がある(予備的請求原因)。

(被告の主張)

(一) 本件火災での家財等の損害額が五〇〇〇万円を上回るとの原告の主張は否認する。被告の調査では、一九五〇万円である。ことに、明記物件に当たるものについては、その実損害すら確認できない。

(二) 本件総合保険契約上、保険の目的である家財のうち、貴金属・宝玉・宝石・書画・骨董・彫刻物その他の美術品で三〇万円を超えるものについては、保険証券に明記されたものでない限り、保険の目的に含まれない(長期総合保険普通保険約款一般条項七条三項二号)。原告の主張する別紙家財目録記載の家財のうち、明記物件欄に印のある家財(以下「本件明記物件」という。)は、本件の保険証券に明記されていないから、いずれも本件総合保険契約の目的に含まれないものである。

(三) 平河支社長が原告宅の家財を査定したとの原告の主張は否認する。一般に、保険会社は、損害保険加入手続を行うに当たり、目的物件の評価査定などは行わないし、本件でも行っていない。また、被告は、本件明記物件が存在するという話をこれまで一度も原告から聞いたことはない。仮に、本件総合保険契約加入時に原告からそのような申告がなされていれば、一般常識を越える多数多額であることからして、被告を始め他の保険会社も保険契約を引き受けなかったはずである。

3  保険金請求権が存する場合、本件住宅保険契約に基づいて支払われるべき保険金額はいくらか。

(原告の主張)

(一) 本件建物の新築時期は、平成二年一一月であり、実際の延べ床面積は一八九・四三平方メートルであって、当初、四一二〇万円で建築したが、原告の意向と異なる部分があったことから、更に増改築工事を有限会社田中建設に発注し、一四〇七万四〇〇〇円を支払った。右のように建築費総額は五五二七万四〇〇〇円であるが、本件建物の焼失時は平成七年一一月三〇日であるところ、本件建物は、一般の木造建物に比較し、はるかに堅固に作られていたから、少なくとも通常の居住用木造建物の償却年数である二六年(原価消却資産の耐用年数等に関する省令(別表一)による。)は使用に耐えるものであり、本件保険契約締結時からの償却率は三年間で一・二五パーセントとなるから、償却額は六二万五〇〇〇円である。したがって、本件火災時の本件建物の価格は少なくとも五〇〇〇万円を上回るものであるから、本件建物火災保険契約によって支払われるべき保険金は五〇〇〇万円とするのが相当である。

(二) 被告の主張するように、本件建物については、原告とBの共有登記がされているが、本件建物は、その建築資金の全額を原告が支払っており、実質的には原告の所有であり、節税対策のために原告とBとの共有登記となっているにすぎない。

(三) 仮に本件建物の二分の一がBのものであったとしても、原告は、Bから、同人の持分についても原告の名で火災保険契約を締結しておいてほしい旨要請され、また、本件建物火災保険契約の締結に当たり、木梨にその旨話したが、問題ないということであったため、契約を締結したものである。したがって、右契約締結に際し、何らかの手続ミスが存在したとしても、それは木梨のミスであって、信義則上、被告はこれを抗弁とすることはできない。

(四) 右主張が認められないとしても、被告の代理店である木梨は、本件建物が共有名義であることを知りながら、原告の被告に対する信頼及び原告の無学に乗じ、あえて、二分の一がBのものであることを保険証券に明記しなかったものであり、これにより明記されていたならば受け取れていたであろう保険金の支払を得られなくさせ、損害を与えたものであるから、被告は、原告に対し、民法七一五条、七〇九条に基づき、保険証券に明記されていたならば取得できるはずだった保険金と同額の金員を損害賠償金として支払う責任がある(予備的請求原因)。

(被告の主張)

(一) 本件火災時の本件建物の価格が五〇〇〇万円を上回るとの原告の主張は否認する。本件建物は、保険契約上全損扱いとはなるが、相当部分が焼け残っていることから、損害額を客観的に評価することができ、その額は三九八〇万円である。

(二) 本件建物は、原告の持分二分の一、Bの持分二分の一で登記されており、本件建物の二分の一はBのものである。ところで、他人のためにする意思を有する保険契約に関しては、保険会社の承認を要するものと定められており、保険会社の右承認がない場合は、保険契約は無効とされている(商法六四八条、住宅火災保険普通保険約款九条一号)。しかし、本件の保険加入手続時に、被告の担当者が、本件建物が原告とBの共有であると説明されたことはない。原告は、本件建物が原告とBの共有であるにもかかわらず、原告の単独所有として本件保険契約を締結したものであり、Bの共有持分部分の保険契約は無効である。

(三) 共有持分権者は、個別にその持分につき損害保険契約を締結することができるのであるから、保存行為として保険契約をすることを認める必要はないが、仮に、共有物について共有者の一人が単独で全体について保存行為として損害保険契約を締結することができると解したとしても、保険金請求権は、共有持分に応じて分割債権となるものであり、共有物の一人が共有物件全体について保険金請求権を行使することはできない。

(参加人の主張)

(一) 本件建物の建築費合計は、原告主張のとおり五五二七万四〇〇〇円であり、耐用年数を法定の二六年、残価を一割として、定額法により計算しても築後五年での価格は四五七〇万七三四六円となる。そして、新築後、改築が行われていることからすれば、右金額よりも評価額は高くなる。本件建物について、かつて締結されていた建物更生共済契約では、建物の再取得金額、時価額とも八〇〇〇万円となっている。

(二) 共有持分についての被告の主張は争う。本件建物の建築に当たっては、その資金はすべて原告によって賄われており、実質的な所有権は原告にあるといえる。

(三) 仮に、本件建物が原告とBの共有であったとしても、共有関係においては、保存行為は持分権者が単独で有効になしえるものであり、共有物に関する火災保険の契約などはこの典型である。この場合、有効に行為が可能であるというのは、他者の持分に関して行為者本人が独自の権能として行為をすることができるということであり、その効果も直接行為者本人のために発生するものである。本件では、原告がBの持分に関して原告のために保険契約を締結したのであるから、右保険契約は本件建物全体について有効な契約であるといえる。

(四) 仮にそうでないとしても、原告は本件保険契約時に、本件建物が共有であることを被告担当者に伝えており、被告もこれを知って契約をしたものであるから、本件保険契約は、原告が、Bの持分に関して、Bのためにした契約として有効であり、B持分についての原告名義での受取りも承認しているといえる。また、右のとおり、被告は、本件建物が原告とBの共有であることの認識を有していながら、共有物については原告単独で契約しても保険金が下りないことを説明せずに五〇〇〇万円という高額の保険に加入させたのであるから、信義則上、共有であるからという理由で保険金支払を拒むことはできない。

4  保険金請求権が存する場合、被告の反対債権は存するか。

(被告の主張)

(一) 被告は、平成七年一一月九日、原告に対し、一五八万〇二〇三円を利息年五・五パーセント、弁済期日を貸付日から一年後又は本件の保険金支払日に元利金一括払と定めて貸し付けた(この貸付は、平成五年一一月九日貸し付けた九七万二〇〇〇円について、平成六年一一月九日までの年五・五パーセントの割合による約定利息金を右同日元本に組み入れて一年間更新し、さらに、平成七年七月二〇日に、元本四九万円を貸増しして、これらの元本総額に対する平成七年一一月九日までの年五・五パーセントの割合による約定利息金を右同日元本金に組み入れて一年間更新したものである。)。

(二) 被告は、平成八年七月五日の本件口頭弁論期日において、本件保険に基づく保険金支払請求権が存在する場合には、前項の債務と対当額でこれを相殺する旨の意思表示をした。

(原告の主張)

原告が被告から金銭を借り受けたことは認めるが、本件火災のため書類を失っており詳細は不明である。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  原告と被告との間で本件住宅保険契約、本件総合保険契約が締結されたこと、本件建物が平成七年一一月三〇日に全焼したことは、当事者間に争いがない。

被告は、本件火災は原告の故意若しくは重過失によって発生したものであるから免責されると主張するところ、乙第一、第二号証によれば、本件住宅保険契約の約款である住宅火災保険普通約款には、保険契約者の故意若しくは重大な過失によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の規定(同約款二条一項一号)があり、また、本件総合保険契約の約款にも同趣旨の規定(同約款損害条項一〇条一項一号)があることが認められる。

そこで、被告の右主張について判断するに、証拠(甲一、八の4、九、一〇の2、一一、一三、一四、二四、二九、三一ないし三五、三九ないし四四、四七、五〇の1、2の1及び2、3、4、5の1及び2、6の1及び2、7、8の1及び2、9、10の1及び2、11、12の1及び2、13、14、15の1ないし3、16、17の1ないし4、18、19の1ないし10、20の1ないし10、21の1及び2、22の1ないし16、23、乙三ないし五、丙一、二、三の1及び2、六、七、原告本人尋問の結果、証人Bの証言(第一回、第二回))によれば、本件火災に至る経緯、本件火災の状況等について、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、テキ屋である極東櫻井総家連合会X組の組長であり、露天商を生業としている者であるが、昭和六〇年一一月三〇日までは、貸金業の規制等に関する法律三条の登録を受けて貸金業も行い、その後も、いわゆる闇で金融業を行っていた。

(二) 本件建物は、平成元年一二月二一日、建築主を原告として建築確認の通知を受け、原告が注文主となって、平成二年四月二〇日、有限会社関口工務店との間で建築工事請負契約が締結され、遅くとも平成二年一〇月ころには完成し、建築を請け負った関口工務店に請負代金として合計四一二〇万円が支払われた。本件建物は、同年一二月五日、いったん原告の名前で所有権保存登記がされたが、同月一四日、右所有権保存登記は、錯誤を理由に原告の持分二分の一、原告の妻であるBの持分二分の一と更正された。

(三) 原告とBは、本件建物の建築代金を支払うため、右両名が連帯債務者となって、平成二年四月一二日、あいら農協との間で、金銭消費貸借契約(以下「本件消費貸借契約」という。)を締結し、五〇〇〇万円を借り受けたが、参加人が原告及びBの委託を受けて、右貸金債務の連帯保証人となった。

(四) 原告は、本件建物完成後の平成二年一一月一〇日、被告との間で、本件建物内の家財を目的として本件総合保険契約を締結した。

また、原告は、本件建物については、同月二七日、あいら農協との間で、共済期間を一〇年、火災共済金額を八〇〇〇万円、共済掛金を月額一三万九二〇〇円とする建物更生共済契約を締結し、平成六年二月二三日付で、いったん右契約を解約した上で、さらに、同日、従前と同内容の建物更生共済契約を締結した。この契約に基づく共済金請求権については、本件消費貸借契約上の債務を担保するため、あいら農協に質権が設定された。また、本件建物には、平成二年一二月一四日、本件消費貸借契約上の債務を担保するため、あいら農協を権利者、連帯債務者を原告及びB、債権額を五〇〇〇万円とする抵当権設定登記がされた。

また、原告は、平成三年七月ころ、約一四〇〇万円をかけて本件建物を一部改築したが、その費用もあいら農協から借り受けて賄った。

(五) 原告は、平成七年六月六日、被告との間で本件住宅保険契約を締結し、同月八日、あいら農協との間の建物更生共済契約を解約した。そして、原告は、あいら農協に対する本件消費貸借契約上の債務を担保するため、本件住宅保険契約に基づく火災保険金請求権につき、あいら農協を権利者として質権を設定し、平成七年六月二三日、被告の承認を得た。

(六) 本件建物の道路等との位置関係は、おおむね、別紙図面(一)のとおりであり、本件建物の間取は、おおむね、別紙図面(二)、(三)のとおりであった。本件建物は、小高い丘の中腹にあり、本件建物の西側には敷地と高低差のない道路がある。本件建物の北側は、隣家の敷地が〇・九メートル下がっており、佐々木宅の車庫等がある。本件建物の東側は、敷地から七メートル下がって道路が通っている。また、南側は、本件建物の敷地から一・二メートル上がって加藤宅があり、両家の間にはブロック塀が積まれている。

原告の家族は、原告と妻B、長女の三人であるが、長女は、平成七年四月から専門学校に通うため、東京で下宿していた。

(七) 本件火災は、平成七年一一月三〇日午前一時二分ころ発生した。当時の天候はくもりであり、湿度は八二パーセント、風速一・五メートル程度の南風が吹いていた。

Bは、前日の夕方から東京の長女の下に出かけており、本件火災発生時、本件建物にいたのは原告だけであったが、原告は、火災発生後まもなく、本件建物の二階ベランダから北側隣家の佐々木宅に大声で呼びかけ、出てきた佐々木和子に「家が火事だから電話してください。」と頼んだ。同女が本件建物を見ると二階の窓から煙が出ていたため、同女は、直ちに一一九番の通報をした。その後、原告は、再び出てきた佐々木和子に頼んで、原告が投げ下ろしたふとんを佐々木宅の車庫の屋根の上に広げてもらい、二階ベランダから車庫の上に飛び降りた。佐々木宅の車庫は、鉄パイプの柱にタキロン樹脂の波トタン屋根を載せた構造になっており、ベランダから車庫の屋根までは約二メートルの高さがあったが、原告が飛び降りたことによって屋根の一部が突き破られ、原告自身は、地面まで落ちてしまった。そのため、原告は、全身打撲等の傷害を負い、まもなく到着した救急車で病院に搬送された。原告は、同日から平成八年一月一八日まで伊東市内の病院に入院した。

(八) 佐々木和子から消防署に通報されたのは、同日午前一時七分であり、午前一時一二分から午前一時二〇分の間に四台の消防自動車が次々に現場に到着し、放水を開始した。その結果、午前二時二〇分ころ、本件火災は鎮火した。最初の消防自動車が現場に到着した時点では、本件建物の二階軒裏及び開口部の閉められた雨戸のすき間などから濃煙が噴出しているのが確認されたが、火炎の噴出は認められず、最後の消防自動車が到着した午前一時二〇分ころには、本件建物の二階東側軒先等から火炎の噴出が見られ、建物内全体に火が回った。また、消防自動車が現場に到着したとき、本件建物の開口部は、すべて施錠されていた。

(九) 伊東市消防本部は、本件火災の翌日である平成七年一二月一日、本件火災現場の実況見分を行った。その見分によると、本件建物全体で最も焼き等の強かったのは、二階寝室であり(別紙図面(三)参照)、西側押入部分の床が焼き脱落しており、そこから一階の仏壇と押入が見える状態であった。また、二階寝室の天井材は焼失しており、小屋梁、小屋束、合掌、母屋は焼き細り、垂木、野地板は焼きし、銅板葺の屋根材が焼き変色し、脱落寸前の状態であった。

一階で特に焼きの程度が強かったのは、仏壇等がある居間(別紙図面(二)参照)であったが、室内の床は、台所に面する板の間が三〇センチメートルから六〇センチメートル焼き脱落しており、大引は居間側の焼きが強く、根太にも焼きが認められたが、その周辺には火源となり得るような物質は認められなかった。台所の冷蔵庫裏側(居間側)の焼きも強かったため、冷蔵庫の配線の短絡等を見分したが、短絡やモーターのによる焼きは認められなかった。また、脱落部分の縁の下には、ガス管、電気配線、ダクト等は通っておらず、縁の下側から燃え上がったような痕跡はなかった。居間の仏壇は、幅一・〇五メートル、奥行き〇・七七メートル、高さ〇・四四メートルの木製のものであるが、幅約一・八メートル、奥行き約〇・九メートルの仏間に納められており、この仏間には障子様の観音扉が付いていたが、この観音扉は完全に焼け落ちていた。仏壇には木製の盆、線香立て、ろうそく立て一対、鐘が置かれており、これらの物が置かれた底の部分は焼きがなかったことから火災時には立てられており、消火の際に散らばったものと推認された。仏壇には照明器具があったが、電気配線に短絡等の痕跡は認められなかった。仏壇右側の床は、強い焼き脱落の箇所(縦〇・二八メートル、横〇・五二メートル)があったが、その縁の下部分には火源となるものはなく、床の上部が焼きし、脱落したものと認められた。仏間の観音扉は焼け落ちていたが、その蝶番(ちょうつがい)は閉まったままの状態であった。仏壇の天井は、一部焼失しており、仏壇南側の押入の間仕切りと天井に焼き脱落箇所があることから、ここから二階へ延焼拡大したものと見分された。仏間の北側は玄関に通ずる廊下があり、居間と廊下の間にはふすまがあったが、このふすまは完全に燃え落ちており、ふすまの北側が台所の南東角の柱となっているが、この柱も強く焼きされていた。居間の畳は、ほとんどが表面のみ焼きしており、深い燃え込みは見られなかった。

(一〇) 伊東市消防本部は、実況見分の結果等から一階居間が出火場所と判定したが、出火原因については、電気関係、たばこ、仏壇の線香・ろうそく、放火の四点について検討し、電気関係については、電気製品の電気配線及びコンセントに短絡等が見分できなかったことやブレーカーが断になっていなかったことから否定できるとし、たばこについては、原告が当日は風邪気味でたばこは吸わないと供述していることから否定できるとし、仏壇の線香・ろうそくについては、Bからの電話で原告が当日線香・ろうそくを上げたと供述していることや一階居間の仏壇付近の焼きが強かったことからすると可能性があるとし、放火については、放火をしたとすれば原告であるが、原告がベランダから飛び降りて負傷をしており、計画的に原告が放火したとしたら安全な避難路を確保したであろうこと、出火場所である一階居間に特に油類は確認されなかったことから否定できるとし、結局、仏壇の線香・ろうそくの可能性があるが、着火物等の位置関係が明確でなく、出火に結びつく物的証拠が確立されないため、本件火災の原因については不明とすると結論付けている。

2  被告は、本件火災は少なくとも三箇所からほぼ同時に出火しており、これは放火であることを示していると主張し、右一で認定したところによれば、本件火災の出火場所は、本件建物の一階居間であったと推認され、かつ、本件火災発生当時、本件建物の開口部はすべて施錠され、建物内にいたのは原告ただ一人であったのであるから、仮に放火であったとすれば第三者の放火はあり得ず、原告が放火したものとしか考えられないことになる。

ところで、本件火災が少なくとも三箇所からほぼ同時に出火したとの被告の主張を裏付ける証拠としては乙第一二号証の鑑定書がある。乙第一二号証によれば、右鑑定書は、東京理科大学火災科学研究所の須川修身助教授が作成したものであるが、須川助教授は、被告から提供された本件火災現場の写真八五セット、本件建物の図面二枚、伊東市消防長発行のり災証明書に基づいて、本件火災について出火場所が複数あるか否かを考察したこと、須川助教授は、右考察の結果、火点が単独であったと考えるのは不合理であり、一階仏間の仏壇周辺及び台所の冷蔵庫周辺にほぼ同時期に複数の火源(少なくとも三箇所)があったと推定されるとしているが、その理由として、本件火災現場の写真から、本件火災の主たる燃焼域は、<1>一階仏間の西端部に沿って冷蔵庫の南西部隅に位置する柱周辺から南方へ延び仏壇の北東角部の柱周辺までの細長く帯状に見分される領域、<2>仏壇の南西隅部近傍から一階天井を燃え抜いて二階押入床及び周辺まで垂直に延焼拡大した領域、<3>台所の冷蔵庫南東隅部の柱周辺及び冷蔵庫底面に対応する床面を含む領域とこれに隣接した冷蔵庫の南側及び東側の腰壁(立ち上がり部分から天井近傍まで)であり、燃焼域は最初に燃焼が開始した領域から垂直上方へ拡大するのが普通であるから、その火点から発達する延焼領域は、垂直方向に帯状あるいは先広がりの扇状に形成され、水平方向に帯状に発達形成することは物理的にあり得ないから、本件に見られるような水平方向に帯状の広がりを持つ燃焼域があることは、火災の初期において火点が一つであるとすれば極めて説明し難く、特に冷蔵庫底面の床面の焼きは仏壇からの延焼とは考え難いことなどを理由としていることが認められる。そして、須川助教授が鑑定に用いた資料である乙第一三号証の写真によれば、本件火災の主たる燃焼域が須川助教授の指摘するとおりであることが認められ、また、前記一で認定したところによると、伊東市消防本部が本件火災現場を実況見分したところによっても、一階居間の仏壇右側と冷蔵庫付近に焼き脱落部分があったことが確認されている。

確かに、火は、油など燃えやすい物質がなく、かつ、風などの影響を受けなければ、上方に燃え広がりやすく、水平方向には燃え広がりにくいということができ、前記一で認定したところによると、本件火災発生当時、本件建物の開口部はすべて施錠されていたというのであるから、火災発生の初期において一階居間には風の影響はなかったものということができるし、仏壇のあるところから冷蔵庫付近にかけて燃えやすい物質が置いてあったと認めるに足りる証拠はない。したがって、仏壇を焼きした火源と冷蔵庫周辺を焼きした火源は別なのではないかと疑うことにはもっともな理由があるといえる。

3  しかしながら、冷蔵庫が置いてあったのは台所であり、この台所に本件火災前どのような物質が置いてあったかは判然としないものの、台所であれば、卓上ガスコンロのガスボンベ、プロパンガスなどの可燃ガスが充填された殺虫剤スプレー缶、あるいは食用油など、いったん発火すれば強い火力を発生するものが存在した可能性が高く、そうであれば、例えば仏壇から発生した火災が仏間の障子様観音扉、その北側のふすまを経て台所に延焼した後に、これらの可燃物質がいきおいよく燃焼し、冷蔵庫付近の板の間、柱などを焼きした可能性がある。証人佐藤正彦は、被告の調査員として、本件火災現場を見分した際、仔細に調べたもののガスボンベやスプレー缶はなかったと証言するが、同証人が撮影した乙第一三号証の写真(18や71など)には、冷蔵庫の上に卓上コンロが写っているのであるから、その近くにガスボンベがあった可能性が高いのであり(証人B(第一回)は、冷蔵庫の脇付近に常時スペアのガスボンベ数本を置いていた旨証言している。)、ガスボンベ等の痕跡が全くなかったというのも不自然である。

4  次に、仮に放火だとすると、その動機は保険金の取得ということになろうが、原告が放火をしてまで保険金を取得しなければならないほど経済的に困窮していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、本件建物の登記簿謄本である甲第一号証によれば、本件建物には、本件建物を建てたり、改築したりするためにあいら農協から借入れた際の抵当権しか設定されていないのであり、少なくとも不動産を担保に入れるほどの借入はあいら農協以外にはなかったことがうかがわれるのである。

また、前記1で認定したように、原告は、本件建物を建築するため四〇〇〇万円以上を費やしており、更にその後の改築にも一四〇〇万円ほど使っているところ、その資金はあいら農協から借り入れており、本件建物の火災保険金請求権にはあいら農協の質権が設定されていて、仮に本件建物について火災保険金が取得できたとしても、その保険金は、あいら農協に取得される関係にあったのであるから、建物の火災保険金が出てもそこからの金銭取得はほとんど期待できない。本件建物内の家財にかけた本件総合保険契約金についてみると、これについての原告の損害がいくらかは後に検討するが、乙第一一号証によれば、被告側の調査によって確認されたものだけでも家財類の損害額は一九五〇万円となっており、これには宝石類などの明記物件は含まれていないことが認められるから、原告宅にはかなりの家財類があったものと推認され、これらの家財類を焼失させて保険金を取得するメリットがあったかどうか疑問ということになる。

その上、前記1で認定したところによると、原告は、本件建物を建築した当初から本件建物とその家財類に火災保険をかけてきたところ、平成七年六月にあいら農協との建物更生共済契約を解約し、被告との間で本件住宅保険契約を締結しているのであるが、建物更生共済契約の保険金は八〇〇〇万円であり、本件住宅保険契約の保険金は五〇〇〇万円になったのである。仮に計画的に放火するのであれば、なぜ保険金が八〇〇〇万円のときにこれをせず、五〇〇〇万円に保険金額を下げてからこれを行ったのであろうか、その合理的理由を見出し難い。

要するに、放火という重罪をあえて犯してまで保険金を取得しなければならない動機について、これを認めるのは困難なのである。

5  また、前記1で認定したように、原告は、本件火災発生後、北側の隣家である佐々木宅の車庫に飛び降りて全身打撲等の傷害を負ったのであるが、北側の佐々木宅は、原告宅よりも〇・九メートル敷地が下がっており、東側は、本件建物の敷地よりも七メートル下がったところに道路があるところ、甲第五〇号証の23のNo.5及びNo.6の写真によれば、原告宅の二階東側にあるベランダの北端のすぐ下には佐々木宅の小さな物置があり、佐々木宅の車庫は少し離れた位置にあることが認められ、佐々木宅の車庫の屋根に飛び降りることは必ずしも容易ではなく、しかも、車庫の屋根は、タキロン樹脂製で飛び降りた際に原告の体重を支えられるかどうか疑問が生じるようなものであった(現に原告は車庫の屋根を突き破って下まで落ちているのである。)。また、ベランダ北端のすぐ下にある佐々木宅の物置は小さい上、物置の屋根に飛び降りそこねると、更に七メートル下にある東側道路に転落しかねない危険もあったのである。したがって、仮に原告が計画的に避難ルートを考えていたとしたら、このような危険のある佐々木宅を通じての避難路は避け、本件建物の二階西側にある子供部屋の窓から敷地と高低差のない西側道路に飛び降りることを考えるのが自然と思われる。

にもかかわらず、原告があえて二階ベランダから佐々木宅の車庫に飛び降りたということは、原告が火災に気付いたときは、一階居間の仏壇から燃え上がった炎が二階寝室の出入り口付近に達していたため(本件火災は少なくとも一階居間から発生し、仏壇南側の押入の間仕切りと天井を経て二階へ延焼拡大したものと認められるが、一階仏壇南側の押入の上がちょうど二階寝室の押入、出入り口付近に当たる。)、出入り口から出て子供部屋に行くことができず、危険であってもベランダから逃げるしかなかったのではないかと思われる(甲第四七号証)。そうであれば、本件火災があらかじめ予期されたものではなかったと考えられるのである。

6  以上検討したとおり、本件火災の焼きの仕方に放火ではないかとの疑問を抱かせるところがないではないが、その動機があったものとは認めがたいことや火災後の原告の行動等に照らすと、本件火災が原告の放火によるものであるとする被告の主張は採用し難いといわざるを得ない。原告本人尋問の結果によると、原告には殺人の前科があり、Bにも前科があって、本件火災の一か月半前にも原告とBは、貸金の取立てに絡んで恐喝未遂で起訴されていたことが認められるが、これらのことを勘案しても、右判断は異ならない。

7  被告は、放火ではないとしても、原告の重過失によるものであると主張するところ、本件火災がどのようにして発生したか本件全証拠によるも判然としない。

しかし、原告は、本件火災があった前日の午後一一時ないし一一時三〇分ころ、仏壇にろうそくを灯し、線香を上げたこと、その後、午前零時ころ、仏間の観音扉を閉めて、二階寝室に上がり就寝したと供述しているところ、前記1で認定したところによると、電気系統からの出火は考えられず、仏壇付近から出火したものと考えられるから、原告がろうそく・線香の火を消し忘れたまま障子様の観音扉を閉めた際に、何かがろうそく・線香の火に接して時間の経過とともに燃え始め、それが障子様観音扉の紙等に燃え移った、あるいは、ろうそくが観音扉の近くにあったため時間の経過により観音扉の紙を発火させたなどの可能性が考えられるが、仮にそうであったとしても、原告の右行為をもって重大な過失があったということはできない。

8  以上の次第であるから、被告の免責の抗弁は理由がない。

二  争点2について

1  原告は、本件火災当時、本件建物内に別紙家財目録記載の家財類があったと主張する。

そして、証人佐藤正彦の証言及び乙第一一号証によれば被告が依頼した株式会社甘糟鑑定事務所は、本件火災直後、本件火災による損害を調査したが、その結果、被害品の存在を確認できたものもあればその存在を確認できなかったものもあったことが認められる。

ところで、別紙家財目録の基になったものは、本件火災に基づく保険金を請求するため、原告が作成して被告に提出した甲第二一号証の家財損害見積明細書であるが、右明細書は、被告の代理店である木梨が原告及びBの記憶に基づいて記載したものである(原告本人、証人B(第一回))。証人Bは、右明細書は、本件総合保険契約を締結する際、木梨が本件建物内の家財等を査定した際に作ったリストを基に記載した旨を証言するが(第一回)、証人平河福太郎の証言によれば、もともと、火災保険契約をする際に保険会社が査定することはないことが認められる上、甲第二一号証の明細書には、本件総合保険契約締結後に取得されたとするものが相当数含まれているのであるから、右明細書が本件総合保険契約締結時に作成されたリストに基づいているとの証人Bの証言は信用し難いものといわざるを得ない。

そして、原告本人尋問の結果によれば、別紙家財目録記載の品物のうち、少なくとも、番号71、73、76、78、81、83、85の物品については、本件火災発生前に原告が売却処分しているのであるから、甲第二一号証の明細書を作成したときの原告及びBの記憶はさほど確かなものではなかったとうかがえる。また、右家財目録のうち、乙第一一号証で損害が確認されたものを除くと、存在したことを裏付ける証拠としては、明記物件に関する甲第一五ないし第一八号証がある程度である。

2  次にいわゆる明記物件について判断するに、乙第二号証、第四号証によれば、本件総合保険契約に関する長期総合保険普通保険約款の一般条項七条三項二号には、長期総合保険契約の保険の目的である家財のうち、貴金属、宝玉及び宝石ならびに書画、骨董、彫刻物その他の美術品で、一個又は一組の価額が三〇万円を超えるもの(明記物件)については、保険証券に明記されていないときは保険の目的に含まれないことが定められているところ、本件総合保険契約の申込書には、明記物件の項目にチェックが入っていないことが認められるから、本件総合保険契約の保険の目的には、明記物件は含まれていないこととなる。

この点につき、原告は本件総合保険契約締結前に、平河支社長及び木梨が原告方に来訪して、各家財について取得価額を記載したリストを作成し、物件の査定手続きを経て、平河支社長より総額五〇〇〇万円程度の家財が存在することの確認とその旨の承認を得て契約を締結しており、この際、平河支社長らからは、明記物件に関する説明や、火災保険契約約款に関する説明などされなかったなどと主張し、原告の陳述書である甲第四七号証及び証人Bの証言(第一回、第二回)には、Bは、自動車損害保険で取引のあった木梨から、家財保険にも加入したほうがよいと勧められ原告に相談した結果、原告は、本件総合保険契約に加入することを決意し、平成二年一一月に平河支社長及び木梨が原告方に来訪し、Bから家財の価格の説明を受けながら家財を確認し、木梨が家財のリストのようなものを作成した旨の供述が存在する。

しかしながら、もともと、火災保険契約をする際に保険会社が査定することはないことは前記認定のとおりであり、甲第二三号証によっても、木梨は、原告との電話での会話の中で、本件総合保険契約の締結に当たって原告宅の家財類の査定はしたことを否定していることが認められる。また、原告本人尋問の結果によれば、かつて原告らは木梨の所有するビルに入居しており、木梨は、原告に自動車損害保険にも加入してもらっていたことが認められ、原告と木梨は、いわば信頼関係のある間柄であったといえるから、ことさらに原告に不利になるような契約の仕方を勧めたとは考え難いところであり、木梨としては、原告宅に明記物件があれば、これを明記物件として取り扱ったものと思われるのである。その上、本件家財目録のうち明記物件とされるもののほとんどは、甲第二一号証、原告本人尋問の結果によれば、闇で金融業を行っていた原告が債務者から担保にとったり、債務者から転売を目的として代物弁済を受けたものであって、原告にとって商品に当たるものであるところ(現に、原告は、明記物件のうち少なからざる物品を本件火災前に売却していることは前述のとおりである。)、乙第二号証によれば、商品は、もともと本件総合保険契約の保険の対象にならなかったことが認められるから(長期総合保険普通保険約款一般条項七条二項三号)、仮に木梨が原告が主張する明記物件を見せられたとしても、これを明記物件として掲げることはできなかったのである。

したがって、明記物件は、本件総合保険の保険の目的に含まれないものといわざるを得ない。原告は、平河支社長や木梨が明記物件にしなかったことをもって不法行為が成立すると主張するが、平河支社長や木梨がその存在を知っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない上、前記のとおり明記物件とされるもののほとんどは金融業を営む原告の商品と解されるから、仮にその存在を知って明記物件にしなかったとしても、これをもって、平河支社長、木梨の不法行為ということはできないし、明記物件についての約款の説明をしなかったとしても同様に不法行為とはいえない。

3  以上に基づいて、本件総合保険についての損害をみると、原告本人や証人Bの証言は、これを全面的に信用することはできないところ、前掲乙第一一号証によると、甘糟鑑定事務所は、本件火災後、本件建物内を見分して損害額を査定したが、別紙家財目録のうち、明記物件とされるものを除くと、存在が確認され、損害額が査定できたものは、番号6、7、17、20、21、22、28、29、30、61ないし65、86ないし89、93、101ないし104であり、これらの損害額は八九四万九〇〇〇円と査定できたこと(なお、番号89のペルシャ絨毯は、高価ではあっても、貴金属等や美術品とはいえず、明記物件には該当しないと考えられる。)、存在が確認されたが、その取得価格、損害額が不明なものとして、番号1ないし3、11、23があったこと、別紙家財目録記載のその余については、衣服類は、クローゼットの収用面積、状況などから一括で七八〇万円程度と査定できたが、それ以外は存在も確認できなかったこと、本件建物内には、別紙家財目録に記載された家財類のほかに、座椅子、大理石テーブル、カラーテレビ、電気スタンド、食器、勝手用具などの物品が存在し三三八万円相当の損害を受けたことが確認されたこと、損害額が確認されたもののうち、別紙家財目録86、87、88、102については、再生活用が可能であり、その損害額合計二〇九万五〇〇〇円から三〇パーセント(六二万九〇〇〇円)を控除した金額をもって損害と査定したこと、以上の事実が認められる。

そして、甘糟鑑定事務所によって、存在が確認されたが、その取得価格、損害額が不明とされた別紙家財目録1ないし3、11、23については、その取得価格に関しては、原告の主張は、別紙家財目録1の韓国製タンスが七五〇万円、同2の韓国製応接セットが三二〇万円、同3のホームバーが三五万円、同11の韓国製青磁壺が三〇万円、同23の韓国製ついたてが八五万円となっているが、これを裏付けるものとしては、原告側の申告しかなく、確たる証拠がないといわざるを得ないものの、日本における通常の取得価格等を考慮して、合わせて三〇〇万円と認めるのが相当である。

そうすると、本件総合保険契約の対象となる損害額は、甘糟鑑定事務所が査定した一九五〇万円に同事務所が査定しなかった右三〇〇万円を加算した二二五〇万円と認められる。

三  争点3について

1  火災保険は、保険事故が発生した場合に消極的にその損害をてん補するものであり、保険契約者あるいは被保険者に対し火災によって生じた損害以上の利益を積極的に供与するものではない。そのため、建物を火災保険の目的とする場合には、原則として、被保険利益は建物所有者に帰属することになるところ、不動産登記簿上、本件建物は原告とBの共有(持分各二分の一)となっていることは、当事者間に争いがない。

2  原告及び参加人は、本件建物の登記を共有名義にしたのは単に税金対策のためであって、現実に建築代金を支払ったのは原告であり、本件建物の実質的所有者は原告であると主張する。

しかし、前記一の1で認定したところによると、本件建物の建築代金は、そのほとんどをあいら農協からの借入で賄ったが、あいら農協からの借入は、原告とBが連帯債務者となって行ったものであることが認められる。したがって、本件建物の建築代金を原告のみが負担したとはいい難く、また、証人Bの証言(第一回)によれば、本件建物の名義を共有にしたのは、将来相続が発生した場合に有利になるためにしたものであることが認められるから、原告が単にBの名前を借りたというものではなく、持分二分の一はBが取得するとの合意の下に本件建物の名義を共有にしたものと解される。そうであれば、本件建物の二分の一はBのものであったと考えざるを得ない。

3  原告及び参加人は、仮に本件建物の二分の一がBのものであったとしても、原告は、Bのために本件住宅保険契約に加入しており、これは第三者のためにする契約又は保存行為として有効なものであると主張するところ、なるほど、原告がBに代わってBの持分についても保険契約を締結することは可能である場合があろう。

しかしながら、本件において問題となっているのは、原告の権限ではなく、もともと、本件建物の二分の一がBのものであることを被告に告げて契約を締結したか否かなのである。他人のためにする意思を有する保険契約に関しては、商法六四八条、住宅火災保険普通保険約款第九条一号(乙一)によって、保険会社の承認を要するものと定められているのであり、原告がBの持分についても保険契約をしようと考えたのなら、その承認手続を経ればよかったのである。しかるところ原告はその手続を経なかったのである。

4  原告は、Bから、同人の持分についても原告の名で火災保険契約を締結しておいてほしい旨要請され、また、本件住宅保険契約の締結に当たり、木梨にその旨話したが、問題ないということであったため、契約を締結したもので、右契約締結に際し、何らかの手続ミスが存在したとしても、それは木梨のミスであって、信義則上、被告はこれを抗弁とすることはできないと主張し、参加人も同様の主張をする。

しかしながら、本件住宅保険契約の締結に当たり、本件建物が原告とBの共有であることを木梨が知っていた事実については、これを認めるに足りる証拠はない。本件住宅保険契約の申込書である乙第三号証によると、本件建物は、三階建で建築延面積が二一一・二平方メートルとなっていて、登記簿上の記載と異なっていることが認められるが、このことは、本件住宅保険契約を扱った木梨が本件建物の登記簿謄本を見ていなかったことを推測させるものである。したがって、Bの持分についての承認手続がとられなかったことをもって、木梨ないし被告側のミスということはできない。

原告は、さらに、被告の代理店である木梨は、本件建物が共有名義であることを知りながら、原告の被告に対する信頼及び原告の無学に乗じ、あえて、二分の一がBのものであることを保険証券に明記しなかったものであり、これにより明記されていたならば受け取れていたであろう保険金の支払を得られなくさせ、損害を与えたものであると主張するが、木梨が共有名義であることを知っていたとはいえないことは、右のとおりであるから、原告の右主張も採用し難く、原告の予備的請求は理由がない。

5  以上からすれば、本件住宅保険契約の保険の対象は、原告の持分である二分の一ということになるので、これを前提に損害額を検討すると、前掲乙第一一号証によると、甘糟鑑定事務所が本件火災後、本件建物を見分したところ、本件建物の再調達価格は四三〇五万四〇〇〇円であり、ここから償却費七・五パーセントを控除した三九八〇万円が本件火災による本件建物の損害と査定したことが認められ、右査定は、信頼できるものと考えられる。

したがって、原告の損害は、その二分の一である一九九〇万円ということになる。

四  争点4について

1  以上によると、原告は、被告に対し、本件総合保険契約に基づいて二二五〇万円、本件住宅保険契約に基づいて一九九〇万円の各保険金請求権を取得したものというべきところ、原告が被告に対して、平成七年一二月二〇日ころ、本件火災による保険金を請求したことは当事者間に争いがなく、保険金は請求があった日から三〇日以内に支払われることになっているから(住宅火災保険普通保険約款二一条、長期総合保険普通保険約款一般条項二一条)、被告は、平成八年一月二〇日以降遅滞に陥ったものというべきであり、各保険金に対し、同日以降年五分の遅延損害金を支払うべきである。

2  ところで、被告は、本件総合保険契約に関連して、平成七年一一月九日、原告に対し、一五八万〇二〇三円を利息年五・五パーセント、弁済期日を貸付日から一年後又は本件の保険金支払日に元利金一括払と定めて貸し付けた(この貸付は、平成五年一一月九日貸し付けた九七万二〇〇〇円について、平成六年一一月九日までの年五・五パーセントの割合による約定利息金を右同日元本に組み入れて一年間更新し、更に、平成七年七月二〇日に、元本四九万円を貸増しして、これらの元本総額に対する平成七年一一月九日までの年五・五パーセントの割合による約定利息金を右同日元本金に組み入れて一年間更新したものである。)と主張し、平成八年七月五日の本件口頭弁論期日において、本件保険に基づく保険金支払請求権が存在する場合には、右債務と対当額でこれを相殺する旨の意思表示をした。

しかるところ、原告も本件総合保険契約に関連して被告から金銭の貸付を受けたこと自体は認めているから、弁論の全趣旨により、被告主張の貸金債権が存在したものと認められる。そして、右の貸金債権については弁済期日を保険金の支払日としているのであるから、原告の被告に対する本件総合保険契約に基づく保険金請求権と被告の原告に対する貸金返還請求権とは、保険金の支払日である平成八年一月一九日限り、対当額で相殺されたものというべきである。

3  結局、本件総合保険契約に基づく保険金請求権は、相殺により、二〇九一万九七九七円になったことになる。

五  原告、参加人の請求について(結論)

1  前記前提となる事実によれば、原告は、参加人に対し、参加人があいら農協に対し代位弁済した三九四九万三八八七円とこれに対する代位弁済の日の翌日である平成一〇年一二月四日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務があることが認められる。

したがって、参加人の原告に対する請求は理由がある。

2  また、前記前提となる事実によれば、原告は、あいら農協に対して、本件住宅保険契約の保険金請求権に質権を設定していたところ、原告らの保証人となった参加人があいら農協に代位弁済することにより右質権を取得したことが認められるから、原告の被告に対する本件住宅保険契約に基づく保険金請求権については、参加人が被告からこれを直接取り立てることができる。そして、本件住宅保険契約に基づく請求権は、保険金一九九〇万円とこれに対する平成八年一月二〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の限度で存在することは前記のとおりである。

したがって、参加人の被告に対する本訴請求は、一九九〇万円とこれに対する平成八年一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。

3  前記二、四によれば、原告の本訴請求は、本件総合保険契約に基づき、被告に対し、二〇九一万九七九七円とこれに対する平成八年一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。また、原告の本件住宅保険契約に基づく請求は失当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大橋弘 裁判官 柴田秀 裁判官 野村武範)

別紙 物件目録

所在 伊東市岡字地円畑一九八番地四八

家屋番号 一九八番四八

種類 居宅

構造 木造銅板葺二階建

床面積 一階 一〇〇・一七平方メートル

二階 七三・六四平方メートル

別紙家財目録・図面<省略>

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